廊下ですれ違ったから甘い香りがしたと思った瞬間、俺はそいつを掴まえていた。



「…ユーリ…?」



君の香り








「ああ、悪い。お前…なんかしてきたか?妙に香ばしい匂いとかすんだけど」
「……あ、クレアがピーチパイを作ってたのずっと見てたから移ったのかな。そんなにする?」
「ああ、すっげー美味そう(笑)」
「じゃあ早く行った方がいいぞ、今なら分けてもらえると思うし」
「そうすっか」
「じゃあオレはクエスト行って来るな」




そう言ってそこで別れた。














夕方、日が沈みかけた頃帰ってきたとまた出会った。
軽く挨拶をして、横をすり抜けたあいつからは今度はベリーの匂い。




……サレと一緒だったのか?」

「え?なんで判ったの?!うん、サレと途中出会って一緒に行く事になったんだ」




ベリーの匂いを全身から漂わせている奴は一人しかいない。
その匂いがからも発していると言う事はずっと一緒にいたということ。




なんだかそう考えると、面白くない気がしてくる。






「お前にもアイツの香水移ってんぞ」
「あ〜そういえばサレからブルーベリーの匂いしてたな。オレにまで移っちゃったのか」
「どうせ、風呂に入るだろ。飯前に行って来いよ」
「うん、そうする」








風呂場へ向ったを見送った俺はどことなく安心している気がした。
そんな俺の肩を後ろから叩く人物がいた。





「やあユーリ」

「…サレ…」




ニヤリと笑みを浮かべている、こいつ…話聞いてたな。





「独占欲かい?」

「は?」

「だってそうだろ?から他の男と同じ匂いがしたのが気に食わなかったように見えたよ」
「俺は別に匂いを落として来いって言ったわけじゃねえけど」
「ふふん、まあそういうことにしておいてあげるよ」







そう言ってサレは何処かへ行った。


なんだろう、確かにそう言われれば面白くは無かったが……独占欲?
なんだそりゃ。










「ユーリ!ご飯食べに行こうぜー!」


風呂から上がったであろう、が戻ってきた。


「おう。…ん?お前まだ髪の毛乾いてねーじゃねえか」

見れば髪の毛が湿っている。
拭いたには拭いたようだが、これでは冷えちまう。

髪の毛を撫でると風に乗って柑橘系の匂いがしてくる。




「ん?これのシャンプーか?」
「んーん、風呂に行く時アニーに会って貸してもらった」



…こいつ、誰かの匂いばっかりつけてんな。




あれ、そう思えばこいつ自身の匂いってなんだろう。






「ほら、ユーリ。食堂行こうぜ」
「おう」












時間も丁度夕食時な為か、食堂には結構な人数がいた。



「うわー。こりゃ戦争だな。、席捜しておいてくれ。俺は飯取って来るから」
「了解。よろしくね」






二人分の食事を確保し、の姿を捜す。
大体あいつの周りは騒がしいからすぐに見つかる筈……あ、いたいた。


誰かが傍にいる。
あれは……マオとパティか。





「あ、ユーリこっちこっち」


「ほら、の分」
「ありがと。やった、今日はオムライスだ♪」





好物を目の前にするとすげえ幼い顔する。
まあディセンダーであるこいつはまだまだ生まれてそうは経ってないもんな。




、ウチにも少し分けてほしいのじゃ」
「ん?パティまだ食べてなかったの?」
「いや、食べたぞ。でもが美味しそうに食べるから欲しくなったのじゃ」
「そっか。じゃあはい」

は一口分掬うとそれをパティに差し出した。
パティは嬉しそうに頬張る。

勿論、それを見てマオが黙っている筈が無い。


「あーパティだけずるいヨー!ねっ僕も僕も!」
「マオも?ちょっと待ってよ、はい」


パティと同じ様にしてマオに差し出すとマオもご機嫌になったようだ。
そんなことしてっと食いっぱぐれるぞー。

もう一度同じ様に二人に与えているを見て、俺は自分のオムライスを掬った。





「へ?あむっ」


振り返ったの口にスプーンを差し込む。
驚いたようだが、は素直にそれを食べた。



「自分の分無くなっちまうぞ」

「…あ、ありがと」





その後、俺の行動を見た二人が今度は食べさせてやると言い出したので少々食事に時間がかかった。

















夕食後、外に気分転換に散歩に行くと俺が言えばはついてくると行った。
……だが「先に行ってて」と言ったきり戻ってこない。
数分後、戻ってきたは小さなバスケットを持っていた。

「ごめんごめん!」
「何持ってきたんだ?」

「良いものだよ、行こう!」
「?」









俺達が来たのは蛍火の草原。
夜になるとまるで蛍のような光を発する植物が一面に咲いていることからそう呼ばれている場所。
魔物も出ないのでとてものどかな場所だ。




「はい」
「ん?これは…」



が差し出してきたのは紅茶クッキーと温かいココア。





「実は昼間に作っておいたんだ」
「へーどれどれ。……美味い」
「やった♪」


紅茶の風味も生かし、歯応えもさっくりとしている。
は料理をよくすると聞いていたが、まさかこれ程とは思わなかった。





「ねえねえユーリ」
「ん?」




“嫉妬”ってなあに?」

「ブハッ!!!!」



「わわわわ!!!ユーリどうしたの!?」





普段ならまだしも、昼間にサレに言われたこともあった所為で思い切り反応してしまった。





「なんでもない。…いきなりどうした?」
「んー…クッキーを取りに戻った時サレに会ったんだけど。“ユーリがあんなに嫉妬するなんて思わなかった”とかなんとか…」





あの野郎………。


よりによって、本人に言うか????



いや、嫉妬したわけじゃあ………




ないことも……ないか?









「嫉妬ってのはだなー…んー」

「??」





俺はの腕を引っ張った。
抵抗の無い体はすんなりと飛び込んでくる。






「自分の大事な奴が他の奴と仲良くしてたら面白くないって思う気持ちのこと」



腕の中にいるからはもうベリーの匂いも、柑橘系の匂いもしない。
するのは森の中にいるような匂い。樹の匂いって言うのかな。

そうか、コレがこいつの匂いなんだ。



「へー…。あれ?じゃあユーリはなんで嫉妬したんだ?」



「お前が俺以外の奴と仲良しだからだよ」



そう言えば、まだ解っていないのか首を傾げる。
まあいい、今はまだ。

いくら他の匂いが付こうとも、こうして俺の匂いをつけてやれば良いのだから。














オマケ

「ユーリ帰らない…?(かれこれ一時間くらい経ってるんじゃね?)」
「んー…もうちょっと大丈夫だろ(あーすっげぇ落ち着く。森林浴してるみてー…)」
『あんまり遅くなるとリヒターやクラトスからお小言が…。どっちかならまだしもダブルで来たら…(怖っ)』
『あーやべえ…眠い…』